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                       現実主義と立憲主義 

 サラミとキャベツ

 ベトナムの宗主国フランス1933年から南沙、西沙に駐留した。それに反発した中華民国は「中国南海島嶼図」を作成した。第2次大戦中は南シナ海全体を日本が支配した。

 大戦直後はフランスが入った。だが、46年までに中華民国が占領して「南海諸島位置図」を作成した。この位置図で東沙(プラタス)諸島、西沙(パラセル)諸島、南沙(スプラトリー)諸島、中沙の島々の名称を決め、47年に十一段線を引いた。

49年に中華民国政府が台湾に逃れ、中華人民共和国が引き継いだ。日本は51年のサンフランシスコ条約で権利を放棄した。南沙最大の太平島と東沙は今も台湾が実効支配する。

 今の中国は53年に十一段線を九段線とし、58年に領海宣言を出した。

薄くスライスする。サラミ戦術では敵を分断して少しずつ滅ぼす。ヒトラーやラーコシ・マーチャーシュのやり方である。

西沙は東北部のアンフィトリテ諸島(宣徳環礁)と西南部のクレスセント諸島(永楽環礁)から成る。中国は50年に宣徳環礁の永興島(ウッディー島)に永興島に武将漁民を送り、56年は宣徳環礁全体に支配を広げた。74年にベトナムから永楽環礁を奪った。中国はこのようなサラミ戦術で西沙全体を手に入れた。

 南沙も同様である。88年にベトナムから東門礁(ヒューズ礁)、赤爪礁(ジョンソン南礁)、渚碧礁(スビ礁)、永暑礁(ファイアリー・クロス礁)、華陽礁(クアテロン礁)、南薰礁(ガベン礁)を奪った。94年にフィリピンから南沙の美済礁(ミスチーフ礁)を奪い、99年までに永久建造物を設置した。2012年に国家主席となった習近平は岩礁の埋め立てを急いだ。東門礁、赤爪礁、渚碧礁、永暑礁、華陽礁、南薰礁、安達礁(エルダッド礁)は数年で人工島となった。

葉で芯を覆う。キャベツ戦術では目標となる島や環礁に触れず、船で包囲して実効支配する。2012年、中沙の黄岩島(スカボロー礁)からフィリピンを排除した。13年、南沙の仁愛礁(セコンド・トーマス礁)への補給物資遮断を予告し、14年には実際に遮断した。フィリピン軍は補給物資の空中投下で抵抗した。

 国連海洋法条約(UNCLOS)は人工島の建設を禁じないが、人工島から12㌋の領海も認めない。米国は戦闘機や戦艦を通行させ、中国の既成事実化に対抗している。今後は米国が中国人工島12㌋以内に入ることも増えるであろう。

ナトゥナ諸島の北東水域ではインドネシアの排他的経済水域(EEZ)と九段線が重なる。今、ナトゥナ諸島の開発は急務である。

 安保法制

 法律は国民から選ばれた国会議員が決める。だが、法案の多くは米国の年次改革要望書による。

 15年9月の安保法制はリチャード・アーミテージ(元国務副長官)とジョセフ・ナイ(ハーバード大教授)が12年8月に発表した第3次アーミテージ・ナイ報告(AN報告)による。

 AN報告は日本が「一流国」(tier-one nation)でありたければ「国際社会で一定の役割を果たすべき」だと言う。専守防衛と一国平和主義を「時代遅れの抑制」とし、集団的自衛権の否定を「日米同盟の障害」とする。

安倍晋三は12年12月に首相に復帰し、13年2月に米国の戦略国際問題研究所(CSIS)であいさつした。「昨年、リチャード・アーミテージ、ジョゼフ・ナイ、マイケル・グリーンやほかのいろんな人たちが、日本についての報告を出しました。そこで彼らが問うたのは、日本はもしかして、二級国家になってしまうのだろうかということでした。アーミテージさん、わたしからお答えします。日本は今も、これからも、二級国家にはなりません。それが、ここでわたしがいちばん言いたかったことであります。繰り返して申します。わたくしは、カムバックをいたしました。日本も、そうでなくてはなりません」。

安倍はその言葉通りAN報告を踏襲した。14年4月に武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則を閣議決定し、7月は集団的自衛権を行使するための武力行使の新3要件を閣議決定した。

安倍は15年4月、米国の上下両院合同会議で日本の首相として初めて演説した。その際、「法案の成立をこの夏までに必ず実現する」と約束した。

 国連平和維持活動(PKO)について、AN報告は「日本は自国PKO要員が、文民の他、他国のPKO要員、さらに要すれば部隊を防護することができるよう、法的権限の範囲を拡大すべきである」と述べた。それを受けてPKO協力法が改正された。

 99年の周辺事態安全確保法では自衛隊の活動範囲に地理的な制約があった。だが、AN報告は「イランがホルムズ海峡を封鎖する意図もしくは兆候を最初に言葉で示した際には、日本は単独で掃海艇を同海峡に派遣すべきである」と述べた。重要影響事態安全確保法により、自衛隊の活動範囲は地球規模に拡大された。

 以下は「対日超党派報告書」(作者不詳)の要旨である。

「東シナ海、日本海近辺には未開発の石油・天然ガスが眠っており、その総量は世界最大の産油国サウジアラビアを上回る。米国は何としてもそれらのエネルギー資源を入手する。

台湾と中国の軍事衝突を契機に米国は中国と戦う。日本の自衛隊は日米安保条約を根拠に戦闘に加わる。中国が補給基地である日本の米軍基地、自衛隊基地を攻撃して日中戦争は本格化する。米国は次第に手を引き、日中の戦争が中心となるように誘導する。日中戦争が激化した後、米国は和平交渉に介入する。米国は東シナ海と日本海で軍事的・政治的に主導し、この地域でのエネルギー資源開発で優位に立つ。

 そのために、日本の自衛隊が自由に海外で軍事活動が出来るような状況を形成しておく」。

08年4月14日の「オルタナティブ通信」によれば、この報告書は「ジョセフ・ナイが、米国上院下院の2百名以上の上下議員を集めて作成した」とある。報告書の原文がないので作者不詳である。だが、誰かが08年4月14日以前に書いた文章であることに間違いはない。したがって、この文章と現実の動きを比較することには意味がある。

 集団的自衛権は不要

 中国は覇権主義である。台湾、チベット、東トルキスタン(ウイグル)、南モンゴル(内蒙古)では他民族の自決権を否定する。南シナ海の岩礁埋め立ては日本の海上輸送路(シーレーン)に関わる。外務省副報道局長の華春瑩は13年4月、「釣魚島(尖閣諸島)は中国の領土主権に関する問題であり、当然、中国の核心的利益に属する」と述べた。次のサラミ・スライスは尖閣である。沖縄が独立して中国に併合される話もある。ゆえに、現実主義の政治学者は安保法制の必要性を訴える。

一方、立憲主義の法曹関係者や憲法学者は安保法制に反対する。集団的自衛権は違憲だからである。だが、日本の違憲審査制は付随的審査制・具体的審査制である。司法の判断は国民の具体的な権利が具体的に侵害されてからである。早さにおいて、司法は立法と行政に遅れる。

すべては時間が解決する。現職の政治家は過去の選挙に依拠する。次の政治家は今の世論に依拠する。憲法は歴史に依拠する。安保法制は国民主権と立憲主義によって否定される。仮に中国軍が尖閣や沖縄に上陸した場合、個別的自衛権と日米安保で対応するべきである。

 南シナ海問題はロシアの北方領土支配や北朝鮮の拉致と同様に長期的な問題である。九段線周辺国(中国、ベトナム、フィリピン、インドネシア)に日米を加えた関係各国の連携こそが解決の鍵である。

 

 

 

 

民主党 立憲主義

尖閣諸島(沖縄県石垣市)

沖ノ鳥島を中心とする日本の排他的経済水域(EEZ)は42万㎢平方㌔であり、国土面積(38万平方キロメートル)を上回る。中国は01年頃から日本の同意なしに沖ノ鳥島周辺の海洋調査を始めた。04年からは沖ノ鳥島を「沖之鳥礁」と呼び、「島ではなく岩だ」と主張している。
 

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